岡山大学から届いた
一本の相談が挑戦の始まり
「何から始めたらいいのか、わかっていなかった」。
そう振り返るのは、メディカルAI推進室 室長・O.Aさんと 係長・T.Tさん。当時はIoT・AI事業推進室に所属しており、医療とは無縁の領域にいました。
そんな彼らのもとに、岡山大学医学部の先生から一本の相談メールが届きます。「胃がんの進行具合をAIで見極めることはできないか」。
医師の目視判断に頼っていた診断精度を、AIで補助したいという大胆な要望。しかも、医療機器の知識もAIの応用経験も乏しかった頃。それでも二人は当時の上司の後押しもあり「やってみます」と即答しました。会社としても前例のない挑戦に、誰もが不安を抱きながらも、「挑戦することを恐れない」という両備システムズの社風が背中を押したのです。2018年、未知なる世界への第一歩を踏み出しました。
意気をくじかれた
承認機関での“洗礼”
最初に取りかかったのはAIに学習させる
ための症例データの収集でした。
岡山大学から提供された200件を超える胃がん画像を丁寧に整理・分類し、AIに読み込ませる日々。手探りではありましたが、研究の足掛かりをつかんでいきました。
しかし、開発とは別に大きな壁が立ちはだかります。「求められるのは研究だけではなかった」。O.Aさん、T.Tさんがそう言って苦笑するように、医療機器の開発には実に多方面での対応が求められました。
その一つが国への申請です。医療機器を販売するためには、厚生労働省の承認を得なければならず、そのための資料作りやプレゼンテーションが必須なのです。研究スタートから1年目には早速、承認審査を行う機関を訪問。構想についてプレゼンを行いました。しかし「結果は散々なものでした(苦笑)」。機器に対する不備を次々と指摘されてしまい、二人は心身ともに打ちのめされました。しかし「この悔しさを糧に、次は必ず通す」。この失敗が挑戦を貫く彼らの新たな原動力になりました。
仲間とともに挑み、
苦難を超える
「意識も手法も変えなければ」。
傷心のプレゼンを機に、体制の再構築に着手。医療機器承認に向けてはコンサルティング会社へ協力を依頼します。また、研究開発に必要な資金集めにも注力。会社からの支援に加え、県をはじめとした自治体の制度活用も並行しました。また、協働してくれる企業を探し、交渉も行うなど、新しい医療機器・システムの開発・販売に向けた地固めを着実に実行していきました。
ただ、業務が増えてくる中で、O.AさんとT.Tさんの二人だけではすべてを担うのが難しくなってきました。特に肝心の研究の人手が足りなくなってきたのです。そこで白羽の矢が立ったのが、T.Mさんでした。T.Mさんは当時、グループ会社内の別会社の所属。製造系のシステム開発に励むエンジニアでしたが、O.Aさん、T.Tさんのいる両備システムズのIoT・AI事業推進室に出向していた関係で、本プロジェクトのサポートを依頼され快諾。研究の担い手として活躍しました。「1年の出向期間が終われば、元の所属先に戻る予定でしたが、中途半端で投げ出したくはない」との思いから、T.Mさんは残ることを決断。AIの精度が思うように上がらない日々もありましたが、それでも、誰一人として投げ出さなかったのは、「挑戦を支える文化」がチーム全体に根付いていたからに他なりません。
そして、7年目の快挙へ――
「挑戦する社風」が実を結ぶ
その後メンバーを拡充しながら、2024年3月、ついに「早期胃癌深達度AI診断支援システム」が医療機器販売承認を取得。
現在までその正診率は8割に達し、岡山大学の先生をはじめ、多くの関係者を驚かせています。
「今後は実用化、製品化のフェーズへ移行。そのために、複数の医療機関で試験的に使用してもらっているところです」。現在では、胃がんだけでなく胆道がんの診断にも着手。T.TさんやT.Mさんは、再び多くの症例画像と格闘する毎日を送っています。「資料作成やプレゼンでも、過去の失敗を糧にすることでスムーズになっています」。また、成功体験を共にした岡山大学とは、さらなる協力関係を構築。新たなニーズの掘り起こしについて、大学病院への常駐を許された。T.Mさんもその一人。「1年間通い続け、研究に対するさらなるモチベーションを得ました」。
両備システムズに息づく、
“挑戦をやり切る”DNA
「ステークホルダーの期待に応えたかった」。
T.Tさんは医療という未知の領域でありながら、また様々な苦労をしてでもプロジェクト成功に邁進した理由をそう語ります。「岡山大学、岡山大学病院、コンサル、企業、国の機関と、本当にたくさんの人が関わり、協働してくれました」。その人たちに報いることが、自分たちの使命だと感じていたのです。O.Aさんは「両備システムズだからこそ成功できた」と続けます。「新しい技術や事業に対する投資に積極的で、一度始まったプロジェクトに対しては自由に、かつ“やり切らせよう”という風土がこの会社にはあるんです」。
未知の領域でも、“やってみよう”と言える自由。失敗しても、“もう一度挑め”と背中を押してくれる環境。その風土こそが、AIを医療機器へと進化させた最大の要因でした。両備システムズはこれからも、挑戦することを恐れず、社会の未来を変えるテクノロジーを生み出し続けていきます。
メディカルAI推進室の皆さん






